好きな音楽のことについて語りたいと思います。

Jackson Browne - Looking Into You

 2015年3月にジャクソン・ブラウンの来日公演が名古屋、東京、大阪、広島で行われました。私は16日の大阪公演に出向きましたが、1970年代から貫き通されて来た「心にかかわる事柄を痛々しく綴る」といった彼のメッセージが明確に伝わって来て、とても有意義なひと時を過ごせたことに感謝しています。真摯で誠実さが窺えるジャクソンのパフォーマンス。居合わせた「普通の人(For Everyman)」であるすべての聴衆にも、ジャクソンが発したメッセージが浸透したことでしょう。
 今回はこの度の来日公演においてオープニング・ナンバーであった「Barricades Of Heaven」(1996年の『Looking East』収録)に続く2曲目のナンバーとしてセット・アップされていた「Looking Into You」を取り上げることにしました。郷愁を誘うようなイントロのピアノの音色が印象的な曲です。



LOOKING INTO YOU
かつて住んでいた家を
ちょっと立ち寄ってみた
初めて独り立ちした頃を
ふり返っている
あの頃、あの幾つもの道は俺が夢に見た場所へ
すべて繋がっていた
そして友達と俺は同じ道へ進んだのだ
今その道筋は踏破され
新たな探求が始まった
自分の出発点が消えてなくなったところへやって来て
俺は認識を新たにしているのだ

壁や窓は昔と変わらず
そのままの場所に位置していた
戸口では音楽が聴こえてきた
今そこに住んでいる優しそうな人たちが
俺の妙な質問に快く応じてくれた
とても遠くからやって来たのかとの問いかけに
俺が無言で答えると
彼らは俺を家の中に招き入れ
子供たちが床の上で座り込んで遊んでいる部屋に通した

俺たちはこの先も変化して行くことを受け止め
人生を語り合った
そのことは俺の心をなごませ
胸をときめかせた
だが、俺が白み始めた外へ
足を一歩踏み出したとき
ハイウェイのほうから囁きかけてくる声と溜息を耳にした
もう出発の準備は出来たかと

そして俺は行き交う人々の顔という顔を覗き込んだ
それは決して満ちることのない海であり
老朽化しついには崩れ落ちてしまう家のようであった
そこは愛でさえも再生の叶うところではない
だが、ここは最高級のホテルであり
客としてここに滞在している
残された人生の時間を待つ間
せいぜいくつろいだほうがよい
それで俺はそんな人々の無数の夢を垣間みた
いつの日かその探求は終わるであろう
いま、俺は絶えず悩まされた幻影の縁に立っている
君のことを見つめながら

ここを通り過ぎた偉大な歌の旅人
彼が俺の人生の目を見開かせてくれた
俺は彼のことを予言者と呼ぶ人間のひとりだった
いかに道程が孤独のままであることを
今までの道のりが示してくれるまで
俺は彼に真実とは何かを問いかけた
いま、俺は自分の人生の中の
自分自身の真実を見つめている
空の中に自分の聖歌を見いだそうとしていた
言葉や音楽が伝わって来る
しかし、そんな言葉や音楽は
俺が出逢った美しき人におよばないだろう
君を見つめている
それが真実


ジャクソン・ブラウン・ファーストジャクソン・ブラウン・ファースト
(2005/09/21)
ジャクソン・ブラウン

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 ジャクソン・ブラウンのファースト・アルバム『Jackson Browne』(通称『Saturate Before Using』)に収められていた「Looking Into You」。自分の人生を振り返りながら淡々と語りかけるように歌う様子に、そこはかとなく哀愁が窺えます。旅をテーマにしていますが、たんなる旅行ではなく、ひとりの人間が成長していく過程が表されているのでしょう。
 自分が育ち、出発点となった家を訪ねて感傷的な思いに浸りながら現在の住人と語り合うひと時。やがて立ち去らねばならないことが分かっていても、心はこの懐かしき家に戻ることを望んでいるようです。歌の中の主人公が見つめる「君」とはこの家であり、同じ道を進む愛する人のことでしょうか。また、「しかし、そんな言葉や音楽は俺が出逢った美しき人に触れることはできないだろう」という歌詞はボブ・ディランの美しいラヴ・バラード、「Tomorrow Is A Long Time」の「川には銀色に光り輝く歌の美がある/空には夜明けの美がある/でも俺が憶えているあの人の瞳には何もかないはしない」という一節を彷彿とさせました。
 なお、歌の冒頭でに出て来る「かつて住んでいた家」はジャクソン・ブラウンが育ったロサンゼルス郊外にあるアビー・サン・エンシーノがモデルとされています。そこはジャクソンの祖父クライドが建てた石と日干しレンガの家。パイプオルガンが置かれたチャペル、美しいステンドグラスの窓が取り付けられたバーがあった手作りの家だったそうです。

Jackson Browne - Farther On

 今回は3月に来日するジャクソン・ブラウンのご登場です。取り上げる曲は「Farther On」。1974年にリリースされたアルバム『Late For The Sky』に収録されていました。

Late for the Sky -Remast-Late for the Sky -Remast-
(2014/07/29)
Jackson Browne

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FARTHER ON
幼き頃、俺は涙を隠し
ひとりぼっちの日々を過ごしていた
投げ込まれた網のような夢を抱いて
孤独という名の海を漂っていた
本や映画や歌に出て来るような
愛を自分のものにするために
俺が生きている現実の世界にも
幻や空想が存在するけれど
俺は今でも心を奪われてしまうような
ほれぼれとした歌を求めている
でも愛が芽生えては消えて行くことを幾度も目の当たりにするうちに
俺の夢は引き裂かれて空虚なものになっていった

記憶の中を駆け巡る穏やかだった日々
食事の時の笑い声
キッチンやリビングを自分なりの計画と拙い努力で
和みの場にしようと心掛けていた
俺の城への門がどのくらい遠かったのか、あるいは近かったのか
はっきりと憶えていなかった
人々は自分たちの数々の夢を石から切り抜いていたが
とにかく自分たちの意思に従った
俺にはうまく言い表せないけれど
どこかで道に迷ってしまったのかもしれない
遥か遠くを眺めてみても
天国なんて傍になく、目に映るのは過去の出来事

もう天使たちは年老いて
日の出を待つこともしない
だけど彼ら彼女らは俺の肩ごしに
俺の旅立ちの地図と素描を覗き込んでいる

遥か彼方に俺は導かれる
旅に出た理由なんて忘却の彼方
だが俺は求めていたものを見つけ出すつもりだ
曙の陽射しのもと、砂の中を手探りで
もう天使たちは年老いて
太陽が急速に沈んで行くのを見ている
だけど彼ら彼女らは俺の肩ごしに
過去の栄光に包まれた幻影を覗き込んでいる
そして彼ら彼女らは俺の背後に身を横たえ
朝が訪れるまで道ばたで眠る
そうして朝になれば
地図と頑な信念を持って
遥か遠くへ歩き始める俺を見つけてくれるのだろう。

 夢破れ、恋人との切ない別れを経験した青年が、また別の新しい夢を見つけるために再出発する決意が込められた「Farther On」。大人の階段を上って行くときに、恋であれ、勉学であれ、仕事であれ、何らかの挫折を身を以て味わった人も多いことでしょう。そうした絶望の中から己を信じ、諦めずに希望を見いだそうと歌いかけるジャクソン・ブラウンの姿には胸が熱くなるようなメッセージが伝わって来るようです。年を重ねた今となっては少々気恥ずかしい想いが込み上げてきますが、若かりし頃に「勇気づけられた」、「元気をもらった」、「癒された」というジャクソンのファンの方も多いのではないでしょうか。
 さて、何度も天使という存在が登場しますが、ここでいう天使たちとは恋人も含め、自分が関わってきた人たちの比喩と思われます。ジャクソン・ブラウンに限らず、人は誰でも周囲にいる人々、様々なメディアを通して知った人物、歴史上の人物の影響を受けていると言えるでしょう。天使は神の代行者として人間を導く存在であると同時に、新約聖書における「ヨハネの黙示録」で最後の審判が行われる際に人類滅亡のきっかけとなるラッパを吹き鳴らしたことから、人間を見守り、監視しながら道を外したものへ罰を与えるという役割を担っていると考えられます。また堕天使ルシファーはもとより悪魔という存在も堕落した天使であり、神に逆らって地獄に堕ち、人間に悪行を勧めるようになったとのこと。人の運命は人間関係によって決まるといって差し支えないのかもしれません。また、1993年にジャクソンがリリースしたアルバム『I'm Alive』に収められた「Too Many Angels」でも「追いつめられた気持ちの時に天使の歌声が聴こえる」といった趣旨の歌詞があり、天使という言葉は彼の歌の重要なファクターのひとつとなっていると推察されます。
 そして人は年齢に関係なく、現実の中で新たな夢を見いだし、明日を信じて懸命に生きていると言えるでしょう。ブルース・スプリングスティーンの「Two Hearts」(1980年発表の『The River』収録)の歌詞の中に、「かつて俺は強がって生きて来た/だけどそれは子供じみた夢の世界を生きていたんだ/そんな夢はそろそろ終わりにしなければな/大人になって、また別の夢を見るために/今、俺は信じているんだ、とどのつまり」という言葉が出てきます。ここにも「Farther On」に通じるメッセージが内包されていると受け取れました。

 1976年のキャピタル・シアターでのライヴ映像です。瑞々しさが伝わってきました。


 こちらは1976年のシカゴにおいてのTVショーでのライブ・パフォーマンスのようです。


 こちらはDVD『Going Home』(1996年発表)に収められていたデヴィッド・リンドレーとのパフォーマンス。


 ピアノ弾き語りによる2012年のライブ映像です。


 私はとても気まぐれな人間ですので、ブログの更新が滞りがちになると思いますが、本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

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