好きな音楽のことについて語りたいと思います。

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David Crosby - Oh Yes I Can

 前回に取り上げたCSN&Yの『American Dream』の記事の中で、デヴィッド・クロスビーの社会復帰が18年ぶりに彼らが再結成するきっかけになったと述べました。そこで今回は『American Dream』発表の翌年である1989年にリリースされたクロスビーのソロ・アルバム『Oh Yes I Can』について少しばかり言及したいと思います。

Oh Yes I CanOh Yes I Can
(1990/10/25)
David Crosby

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1. Drive My Car
2. Melody
3. Monkey And The Underdog
4. In The Wide Ruin
5. Tracks In The Dust
6. Drop Down Mama
7. Lady Of The Harbor
8. Distances
9. Flying Man
10. Oh Yes I Can
11. My Country 'Tis Of Thee

 前回の記事でも触れましたが、デヴィッド・クロスビーは薬物中毒に陥り死線を彷徨う経験をしています。彼がドラッグに手を出し始めたのは音楽活動を行うようになって間もない頃ということなので、1960年代初頭からでしょうか。マリワナやLSDといったドラッグの使用により意識の世界が広がるという感覚を得た気分になっていたようです。ザ・バーズ在籍時も脱退後もクロスビーの薬物癖は治まらず、69年に恋人を交通事故でなくしてからは苦痛を忘れるためにヘロインをも使い、常習に拍車がかかりました。60年代のカウンター・カルチャーはドラッグ・カルチャーと揶揄されることもあり、そうした文化の中心にどっぷり漬かっていたクロスビーには自分が薬物中毒であるという認識がなかったのかもしれません。また、ドラッグの影響が反映されたファースト・ソロ・アルバム(1970年発表)が、CS&Nの成功の余勢を駆ってまずまずのセールスを記録したことも自分の言動を正当化する根拠になったと推測されるでしょう。
 癒しのつもりで始めたドラッグはやがてクロスビーの心身を蝕み、音楽活動や人間関係に支障を来すようになります。稼いだ金はドラッグにつぎ込まれ、破産寸前。薬物や銃の不法所持で逮捕されることもしばしばでした。
 グラハム・ナッシュ、ジャクソン・ブラウン、そしてジェファーソン・エアプレインのポール・カントナーとグレイス・スリックらの尽力によりクロスビーは治療のために病院へ入院するものの脱走を繰り返し、恋人とともに国外脱出を図るほどの手の付けられない状態へと向かいます。しかし、このまま逃亡生活を続けるとアーティストとしての活動停止はもとより、子供たちにも二度と会えない状況になることに気づき、己の過ちを恥じ入るが如く自らFBIに連絡して逮捕されることを選択したのでした。
 クロスビーはダラスの刑務所の独房で4ヵ月を過ごし、その後テキサスの刑務所へ移って刑務作業に勤しみ、薬物から抜け出す努力を懸命に行います。やがて創作活動も再開できるほど快復し、1986年8月8日、クロスビーは服役を終えて仮出所。社会復帰の第一歩を踏み出すことになりました。
 ロサンゼルスの更生施設でリハビリに励み、肝移植手術を受けて体調も整ったクロスビー。本格復帰を視野にいれ、グラハム・ナッシュとともに「ドラッグ追放コンサート」のステージに立ちます。そして、1988年のCSN&Yのリユニオンが実現する運びとなりました。
 翌89年、心身の健康を取り戻したデヴィッド・クロスビーはソロ・アルバム『Oh Yes I Can』をリリースします。タイトルに表されている通り、美しく親しみやすいメロディーに乗せてポジティヴなメッセージが伝わり、ドラッグにのめり込んだかつての退廃的なイメージはどこにもありません。それでも社会問題や環境問題への関心は薄れることなく、警告や問題提起が込められた曲も幾つか含まれていました。
 
 クロスビーとクレイグ・ダーギと彼の妻であるジュディ・ヘンスキらとの共作、「In The Wide Ruin」。ジャクソン・ブラウンがコーラスで参加しています。美しいバラード曲ですが、CS&Nの「Wooden Ships」やジャクソン・ブラウンの「Before The Deluge」に描かれた世界のその後が示されていると思われ、核開発や環境問題への警鐘と受け取れました。もっとも、自衛のために核が必要との論議や環境保護を隠れ蓑にしてタチの悪いビジネスを展開する勢力が横行している昨今、せっかくのクロスビーらのメッセージも綺麗ごとにしか映らなくなったのが残念です。



IN THE WIDE RUIN
この砂漠に中に
かつて街があった
噴水は光を浴びてきらめき
澄みきった水が溢れ出ていた
舞い上がる白い鳥の群れ
もしかしてここは海だったのかもしれない・・・・・
そして音楽も流れていた

荒涼とした心の奥深く
変わりゆくものは何ひとつない
荒涼とした心の奥深く
留まるものは何ひとつない

石の宮殿
硝子の塔
真鍮で形作られた鐘が
時を告げる

地平線の向こうの
栄華を誇った地の中に
見渡す限り
人の姿はどこにもない
風が吹きすさぶ空間に
人々の痕跡は何も残っていない
人の心を認識したい
私に確かめさせてほしい

荒涼とした心の奥深く
変わりゆくものは何ひとつない
荒涼とした心の奥深く
留まるものは何ひとつない
眠りなさい 荒れ狂う心よ
果てしない廃墟の中で

 マイケル・ヘッジスのアコースティック・ギターをバックにグラハム・ナッシュとのハーモニーが心に滲みる、「Tracks In The Dust」。クロスビー夫妻とナッシュ夫妻の4人で夕食を共にしていた時の世間話にヒントを得て作られた歌とのことですが、各々による政治批判や当時のアメリカ社会への複雑な思いが表されていました。



 ドラッグに取り憑かれた生活への訣別と新たな人生を育む決意が表された表題曲、「Oh Yes I Can」。ジェイムズ・テイラーがコーラスで参加していますが、薬物中毒で苦しんだ経験のある彼にとってもこの歌は共感するところが多々あったと推察されます。バックを受け持つのはクレイグ・ダーギ(キー・ボード)、リーランド・スクラー(ベース)、ラス・カンケル(ドラムス)ら気心知れたお馴染みのメンバー。情感を込めたクロスビーの歌声からは自信に満ちあふれた様子が窺えました。また、この歌は国外逃亡を図った際も傍らに寄り添い、後に妻となったジャン・ダンスに捧げられているとも解釈出来るでしょう。



OH YES I CAN
ピアノの前に座り込んで
どうすればこの闘いに勝てるのかと思いを巡らす
俺が愛してやまなかった女性は
ひどい仕打ちがなされたのだと感じているように思える

でも、そうじゃない
絶対にそんなことはないんだよ
君に分かってほしいんだ

そうさ、
俺は君が恋した男のままでいられるんだよ
大丈夫さ
火と氷、火と氷・・・・・・水

キッチンに座っているけれど
食事のことを考えているわけではない
君をとても愛している
出て行く君を見たくないんだ
目が見えなくなってしまう時は
きっとこんな感じなんだろうな

どうしても君に知ってもらいたい
君に理解してもらいたいんだ

砂丘に座り込んで
どうしたらいいのか海に問いかけている
俺は再び自分の人生を見つけた
それは君の存在
君とともに分かち合いたい
だけど君を失うと考えただけで
とてつもない恐怖に苛まれる

そうさ、
俺は君が恋した男のままでいられるんだよ
大丈夫さ
分かるだろう
俺が言いたいのは
火と氷
火と氷で
水になるってことさ

 アルバムを締めくくるトラディショナル・ナンバーの「My Country 'Tis Of Thee」はCS&Nの息の合ったライヴ映像を堪能していただければ幸いです。演奏が終わり、共和党の大統領候補として民主党のバラク・オバマ上院議員(当時)と2008年の大統領選挙で戦ったジョン・マケイン上院議員とCS&Nが握手を交わす場面が印象的でした。



 アルバム発売直後にTVショーに出演した際の映像です。ハード・ロック風のオープニング・ナンバー、「Drive My Car」と麻薬中毒から抜け出す苦しみを歌にした「Monkey The Underdog」のライヴ・パフォーマンスを宜しければご覧ください。



 1994年にドラッグ中毒の後遺症から再び肝臓移植手術を受けるアクシデントがありましたが、復帰後の音楽活動はほぼ順風満帆。円熟味と瑞々しさが溢れ出たパフォーマンスを繰り広げています。ドラッグに身も心も奪われた80年代中頃のおぼつかない様子はもうどこにもありません。

 私が大学生だった80年代のある頃、「デヴィッド・クロスビーは温和そうに見えるけど性格の悪い奴らしいで」と少し年上の知り合いががっかりした口調で言っていたのを憶えています。でも、それは薬物に取り憑かれて自己を失っていた時の彼の姿。周囲の人たちの惜しみない献身に支えられて復調したクロスビーの映像を目にすると、本来は繊細で優しい人柄なのだと実感しました。

 先頃、卓越したソウルフルな歌唱力で一世を風靡したホイットニー・ヒューストンがこの世を去りました。死因は不明ですが、彼女もドラッグに溺れた時期があり、破産寸前にまで追い込まれたとの報道を耳にしたことがあります。夫の暴力や離婚問題が彼女を薬物に走らせたのでしょうか。
 1980年代の中頃、「覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか?」というキャッチフレーズのCMがテレビで放送されていました。薬物依存は心身を滅ぼすことのみならず周囲の人々まで巻き込み、代金は闇の勢力の資金源へと流れて行くのが実状。ドラッグを使って現実の困難から逃避しても、救われるどころかさらなる苦難が待ち受けているものです。薬物に深入りすると塗炭の苦しみを味わい、悲劇的な末路を辿ることをデヴィッド・クロスビーの波瀾万丈の人生が物語っていると言えるでしょう。
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