好きな音楽のことについて語りたいと思います。

The Beatles - Roll Over Beethoven

 前回はポール&リンダ・マッカートニーの「Heart Of The Country」を取り上げました。ついでと言っては何ですが、今回は本隊のザ・ビートルズの皆様にご足労をお掛けすることにします。お題は「Roll Over Beethoven」。1963年11月22日発表のアルバム、『With The Beatles』に収められていたチャック・ベリー作のナンバーです。

ウィズ・ザ・ビートルズウィズ・ザ・ビートルズ
(2009/09/09)
ザ・ビートルズ

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1. It Won't Be Long (2009 - Remaster)
2. All I've Got To Do (2009 - Remaster)
3. All My Loving (2009 - Remaster)
4. Don't Bother Me (2009 - Remaster)
5. Little Child (2009 - Remaster)
6. Till There Was You (2009 - Remaster)
7. Please Mister Postman (2009 - Remaster)
8. Roll Over Beethoven (2009 - Remaster)
9. Hold Me Tight (2009 - Remaster)
10. You Really Got A Hold On Me (2009 - Remaster)
11. I Wanna Be Your Man (2009 - Remaster)
12. Devil In Her Heart (2009 - Remaster)
13. Not A Second Time (2009 - Remaster)
14. Money (That's What I Want) (2009 - Remaster)

 ファースト・アルバム『Please Please Me』を踏襲して、オリジナル曲が8曲、カヴァーが6曲という構成の『With The Beatles』。好きな楽曲をみんなが持ち寄ったとリンゴ・スターが後述していますが、R&B色が濃く反映された内容となっています。
 今回のお題である「Roll Over Beethoven」はチャック・ベリーが1956年にヒットさせた曲。もともとはジョン・レノンが得意としていたナンバーですが、ビートルズデビュー前の1961年頃にジョージ・ハリスンにリード・ヴォーカルを譲りました。ジョンは後年のインタビューの中で、「ジョージの奴に歌いやすい曲を与えていたんだ」との趣旨を語っています。
 ジョンはこの曲の他にもアルバム『Beatles For Sale』の中で、「Rock And Roll Music」をカヴァーするなどチャック・ベリーへの敬愛ぶりが窺え、「歌詞が知的」、「ロックン・ロールの詩人」と評すと同時に、「ロックンロールに別の名前を与えるとすれば、それは『チャック・ベリー』だ」と発言していました。

 若さみなぎるビートルズの歯切れの良い演奏。「さぁ、踊れ」と言わんばかりのハンド・クラップが花を添えています。


ROLL OVER BEETHOVEN
さて、ちょこっと手紙を書いて
地元のローカル局のD.J.に送ってやろう
いかしたロックのレコード
D.j.の奴にかけてもらいたいのさ
ベートーヴェンをぶっ飛ばせ
今日もあれをもう一度聴きたいんだ

体が火照り
ジュークボックスのヒューズが吹っ飛び
俺の鼓動がリズムを刻む
魂はブルースを歌い続けているんだ
ベートーヴェンをぶっ飛ばせ
チャイコフスキーにもこのニュースを知らせてやろうぜ

ロックの熱で肺炎に侵され
リズム&ブルースの注射がよい薬さ
リズム・レヴューの側に座っていたら
関節炎に侵されてしまったようだ
ベートーヴェンをぶっ飛ばせ
二人一組でロックしようぜ

こいつを感じて気に入ったなら
恋人を連れて来なよ
回して、揺らして、転がして
上げたり下げたり、もう少しだけ遠くまで
回って、揺らして、転がして
ベートーヴェンをぶっ飛ばせ
カップルでロックしようぜ

朝の早いうちから言っておくけれど
俺のブルー・スウェード・シューズを踏むんじゃねえぜ
ひょいと、フィドルを弾いちまおう
失敗しても失うものはないんだ
ベートーヴェンをぶっ飛ばせ
チャイコフスキーにもこのニュースを知らせてやれよ

彼女は蛍みたいに小刻みに腰をくねらせ
コマのようにくるくる踊る
彼女がいかれたパートナーと一緒に
回って、揺られてロックしているのを見ておくがいい
彼女の小銭が切れない限り
音楽が鳴り止むことはない
ベートーヴェンをぶっ飛ばせ
ベートーヴェンをぶっ飛ばせ
リズム&ブルースをお楽しみかな

 歌の中にベートヴェンやチャイコフスキーといった有名な作曲家の名前が出てきますが、他にも様々な曲名が含まれていました。チャック・ベリーは「ロックン・ロールの吟遊詩人」と呼ばれるだけあって、創意工夫が凝らされています。
”A shot of rhythm & blues”(リズム&ブルースの注射が良い薬さ)
アルバム『Please Please Me』収録の「Anna」の作者であるアーサー・アレクサンダーが、1961年に「You Better Move On」のB面として発表した曲。ビートルズはアルバム『Live In BBC』において、ジョン・レノンのリード・ヴォーカルで収録している。蛇足だが、A面の「You Better Move On」のほうはザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ホリーズ、ディーン・マーティンなどの録音がある。
"Rhythm revue"(リズム・リヴュー)
リズム&ブルースの歌と踊りに時事風刺劇を組み合わせたヴァラエティー・ショーのことであろう。またはその公演の出演者を一覧出来る宣伝用のポスター。
"Early in the morning"(朝の早いうち)
ソニー・ボーイ・ウィルソンの1937年のヒット曲、あるいはルイス・ジョーダンの1947年のヒット曲のことだろうか。
"Blue suede shoes"(ブルー・スウェード・シューズ)
エルヴィス・プレスリーにもカヴァーされたカール・パーキンスのヒット曲。1956年1月1日リリース。
"Hey diddle diddle" (ひょいと)
 イギリスの伝承童謡『Mother Goose』の中の一説、「Hey, diddle, diddle, the cat and the fiddle, the cow jumped over the moon (ヘイ、ディドル、ディドル、猫にフィドル、雌牛は月を飛び越えた) 」をもじったのであろう。また、"diddle" はチャック・ベリーの親友でもあるボ・ディドリーのことを指すとも言われている。彼はロックン・ローラー兼ギタリストであると同時に、フィドルの腕前もなかなかのものとのこと。
 さらに、"diddle" にはスラングで卑猥な意味もあり、1972年に全米1位に輝いた"My Ding-A-Ling" という猥褻な歌を書いたチャック・ベリーのこと、そのあたりも意識していたのかもしれない。
 なお、「Hey, diddle, diddle」は呼びかけの言葉であり、北原白秋は「へいこら、ひょこっら、へっこらしょ」、谷川俊太郎は「えっさかほいさ」と訳していたと思う。

 このライヴ映像は1964年にイギリスで放送されたテレビ番組「Around The Beatles」からのものです。


 チャック・ベリーのヴァージョンは「Duck-Walk(ダック・ウォーク)」のパフォーマンスが堪能できるライヴ映像をご覧ください。


 さて、この「Roll Over Beethoven」のカヴァー・ヴァージョンは枚挙に暇がありません。そのうちの幾つかを紹介させていただきますので、興味の持たれたものを聴いていただければ幸いです。

 まず、1970年代から80年代にかけて数多くのヒットを連発させたエレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)のヴァージョン。1973年リリース。リーダーのジェフ・リンがビートルズの熱心なフォロワーだったことも手伝って。「ビートルズよりもビートルズらしい楽曲を持ったバンド」、「ビートルズの遺伝子を受け継いだバンド」と言われたことがありました。
 ジェフ・リンはビートルズとの交流も深く、ジョージ・ハリスンの『Cloud Nine(』1987年発表)、『Brainwashed』(2002)、ポール・マッカートニー『Flaming Pie』(1997)、リンゴ・スター『Time Takes Time』(1992)などのメンバーのソロ・アルバムのプロデュース、および1995年から96年にかけてのビートルズのアンソロジー・プロジェクトにも参加し、「Free As A Bird」、「Real Love」などをビートルズのメンバーらと共同プロデュース。また、ジョージ・ハリスン、トム・ペティ、ボブ・ディラン、ロイ・オービソンらとトラヴェリン・ウィルベリーズを結成し、『Volume One』(1988)、『Volume 3』(1990)などのアルバムを発表しています。


 ザ・バーズのヴァージョンは1967年2月にスウェーデンのラジオに出演した際に録音されたもので、1990年にリリースされたボックス・セット『The Byrds』に収録されていました。リード・ヴォーカルはクリス・ヒルマン。


 クリス・ヒルマンとグラム・パーソンズがバーズを脱退して結成したフライング・ブリトウ・ブラザーズのヴァージョンは1972年に発表された『Last Of The Red Hot Burritos』の2009年盤ボーナス・トラックとして収録。こちらもクリス・ヒルマンがリード・ヴォーカルを取っている模様。


 フェリックス・パッパラルディ率いるマウンテンのヴァージョンでお開きとしましょう。1971年の『Flowers of Evil』に収録。巨漢レズリー・ウエストのギターが唸ります。


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Paul & Linda McCartney - Heart Of The Country

 前回まで3回に分けて取り上げたザ・サンドパイパーズは、ビートルズのカヴァーを得意としていたバンドでした。ことに「Yesterday」や「Michelle」などをスペイン語で歌い、懸命にオリジナルとの差別化を図ろうとしていた意図が窺われます。
 さて、今回はサンドパイパーズの涙ぐましい努力に感化されたわけではないのですが、ポール・マッカートニーさんに登場してもらうことにしました。お題は「Heart Of The Country」。今は亡き愛妻リンダとの共同名義で1971年にリリースしたアルバム、『Ram』に収録されていた1曲です。

RamRam
(2012/05/22)
Paul Mccartney & Linda

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1. Too Many People
2. 3 Legs
3. Ram On
4. Dear Boy
5. Uncle Albert / Admiral Halsey
6. Smile Away
7. Heart Of The Country
8. Monkberry Moon Delight
9. Eat At Home
10. Long Haired Lady
11. Ram On
12. The Back Seat Of My Car
 
 ボーナストラック満載の『Special Edition』。

Ram -Spec-Ram -Spec-
(2012/05/17)
Paul Mccartney

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 さらに『Ram』の楽曲をインストゥルメンタルで再現した『Thrillington』とプロモーションDVDが付いた『Super Special Edition』。

RamRam
(2012/05/22)
Paul Mccartney & Linda

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 ビートルズ解散がよほどショックだったのか、家族の関係を大切にし始めたポール・マッカートニー。このままシーンから身を引き、自らが所有するスコットランドのハイ・パーク農場で隠遁生活を送ってしまうつもりだったのでしょうか。ところがどっこい、大自然に囲まれた環境で英気を養い、リンダと家族の応援のもと、来るべき再始動に備えようとの意志が示されていたのです。
 心安らぐ雰囲気の中で曲作りに励み、機が熟すとニューヨークに渡りレコーディング。シンプルでアット・ホームな音作りを心掛けながらもドラムスにはそのままウイングスに加入するデニー・シーウェル、ギターには台頭著しい若手のデヴィッド・スピノザとヴェテランのヒュー・マクラッケンを起用して万全の布陣を配しました。また、リンダのコーラスもポールの親しみやすいメロディによく似合っており、仲睦まじい演出がなされていると言えるでしょう。

 今回紹介する「Heart Of The Country」はアコースティックな小品。田舎に移住したいと思った時のポールの心情が表されているかのようです。カントリー調の作品ながらもスキャットが、『The Beatles(ホワイト・アルバム)』収録の「Rocky Raccoon」を彷彿させました。

 
HEART OF THE COUNTRY
あちらにこちら
どこへ行っても目を凝らし
住まいを探しているんだ
田舎の奥深くに

引っ越ししよう さあ行こう
知り合い全員に伝えておくのさ
住まいを探しているんだ
田舎の奥深くに

田舎の真ん中
そこは汚れなき心を持つ人々を育むところ
田舎の奥深く
牧草地の草の香りがするところ

馬が欲しい 羊も欲しい
夜はぐっすり眠りたい
田舎の奥深くにある
我が家で暮らしながら

 ポールの自信が溢れた『Ram』は全英1位、全米2位を記録しましたが、評論家に酷評され、ビートルズのメンバーからも冷たい視線が向けられました。ジョン・レノンには、「How Do You Sleep」とからかい半分で気遣われる始末。ジョンはまた、「ポールの奴め、馬がほしい、羊がほしいだと? ならば都会の豪邸に住む俺様は豚でも飼おうか」とばかりにアルバム『Imagine』の中に豚と一緒に写した写真(ポスト・カード)を封入していました。FAB4の面々はどこまでもお遊びがお好きなようです。

 こちらは前述の『Thrillington』(1977年発表)収録ヴァージョン。


 今月号はアルバム『Ram』の特集号。ポールとジョンに負けじと、ジョージ・ハリスンがアルバム『33 1/3』のジャケット内側の写真にペンギンを駆り出したエピソードが描かれた本秀康先生の漫画も掲載されています。


レコード・コレクターズ 2012年 07月号レコード・コレクターズ 2012年 07月号
(2012/06/15)
不明

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The Sandpipers - Softly As I Leave You

 3回に分けて紹介して来たサンドパイパーズのアルバム『The Sandpipers』もファイナルを迎えることになりました。今回は「Try To Remember」、「I'll Remember You」、「Softly As I Leave You」の3曲を取り上げます。

サンドパイパーズ(紙ジャケット仕様)サンドパイパーズ(紙ジャケット仕様)
(2012/04/18)
サンドパイパーズ

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1. The French Song
2. Bon Soir Dame
3. For Baby
4. Inch Worm
5. It's Over
6. Glass
7. Rain, Rain Go Away
8. Yesterday (Ayer)
9. Michelle
10. Try To Remember
11. I'll Remember You
12. Softly As I Leave You

 

TRY TO REMEMBER
あの9月のことをほんの少し思い出そう
人生に余裕があり、豊かだったあの頃
あの9月のことをほんの少し思い出そう
芝生が青々と茂り、穀物は黄金色に実る
あの9月のことをほんの少し思い出そう
君はまだ若く、世間知らずの若者だった
思い出してごらん、もし記憶が甦ったなら
その時は追憶に身を任せるといい

思い出そう、心が穏やかだった日々を
しだれていた木は柳だけ
思い出そう、充実していた日々を
枕元には夢が絶えず浮かんだ
愛は炎の余韻
思い出してごらん、もし記憶が甦ったなら
その時は追憶に身を任せるといい

12月も深まった頃、思いを馳せるのは素敵なこと
そろそろ雪が降ってくるって分かってるけれど
12月も深まった頃、心の痛みがなければ
思いを馳せるのは素敵なこと
心は虚ろな季節だから
12月も深まった頃、思い出してみるのは素敵なこと
ふたりを和ませたあの9月の煌めく日々を
12月も深まった頃、二人で思い出を刻み込もう
そして追憶に身を任せるといい

 この曲のカヴァー・ヴァージョンは枚挙に暇がありません。パティ・ペイジ、ブラザーズ・フォー、アンディ・ウィリアムズ、チャーリー・バード、ナナ・ムスクーリなどジャズ、ポップス、ロックとキャンルを超えて多くのアーティストによってレコーディングされてきました。
もともとはミュージカル『The Fantasticks』(1960年初演)のテーマ曲で、脚本を担当したトム・ジョーンズ(大御所シンガーとは別人)が作った叙情詩に、ハーヴェイ・シュミットが曲を付けたものです。初演の舞台の出演者のひとりでもあった俳優のジェリー・オーバックのヴァージョンがファースト・リリースで、1960年リリースの『The Fantasticks』(ミュージカルのサントラ盤)に収録。
 ジェリー・オーバックは舞台、テレビドラマ、映画と幅広く活躍した俳優です。映画『Dirty Dancing』(1987年公開)でのジェニファー・グレイ扮するヒロインの父親役、声優として出演したディズニーの長編アニメーション『Beauty and the Beast』における、魔女の呪いでロウソクに姿を変えられた召使いのルミエール役などが印象的でしたが、惜しくも2004年に他界しました。


パティ・ペイジのヴァージョンは1964年リリースの『Love After Midnight』に収録。


ロイ・オービソンもカヴァーしています。1969年の『Roy Orbison's Many Moods』に収録。


 ハワイの伝説的なシンガー・ソング・ライター、クイ・リーの「I'll Remember You」。透明感のあるサンドパイパーズの歌声は、ボサノヴァ風のハワイアン・ミュージックもよく似合います。


i'll remember you
この永遠に続くような夏が過ぎ去っても
君のことは忘れないだろう
君のことを思い出しながら日々を送るとなれば
とても淋しく、孤独感に苛まれるだろう

君のことはずっと憶えている
君の話し声は和やかな夏のそよ風のように優しく響き
君の素敵な笑い声は二日酔いの気分を癒す
あれからずっと、君を忘れない

いつの日か、君の側に戻って来るよ
その時まで
二人が星に願いを込めたことを忘れないでいよう
いつも愛して どんなときも愛すると約束して
君も憶えていてほしい

君を忘れない

 クイ・リーのヴァージョンは1966年発表の『The Extraordinary』に収録。


 原曲は「Piano」というタイトルで、アントニオ・デ・ヴィータとジョルジオ・カラブレーゼの共作。1960年にリリースされたミーナのヴァージョンがヒットしました。カラブレーゼ自身もイタリア語でレコーディングしているようですが、ヴィータも1972年に自らのピアノ・トリオを率いてアルバム『Softly As I Leave You』の中の1曲として収録しています。
 1962年、「イギリスのシナトラ」と呼ばれたマットモンローが、ハル・シェイパーによって英語詞が付けられたヴァージョンをリリース。その後、ドリス・デイ、フランク・シナトラ、アンディ・ウィリアムズ、エルヴィス・プレスリーなど数多くのアーティストによってカヴァーされてきました。

SOFTLY AS I LEAVE YOU
静かに、足音を立てないで君のもとを立ち去ろう
君が目覚めて去り行く俺の姿を目にしたら
俺の心は粉々になってしまうだろう

だから俺は黙って君のもとを立ち去るんだ
君が出て行った俺に気がつく前に
もう1時間、もう1日と
君が両腕で俺にすがりつきながら懇願する前に

君と過ごした長い年月を思うと
はかなく頬をつたう涙をこらえることができない

俺がその場を立ち去る瞬間
俺が君を置いて立ち去る瞬間

 マット・モンローのヴァージョン。


 ドリス・デイのヴァージョンは1964年の『Love Him!』に収録。



 1958年にデビューしたイタリアの国民的歌手ミーナのヴァージョン。1959年の「Tintarella di luna(月影のナポリ)」、1964年の「Un Buco Nella Sabbia(砂に消えた涙)」が日本でもヒットしています。


 ファースト・アルバム『Guantanamera』で南米情緒を醸し出していたサンドパイパーズですが、本作ではフランス語の楽曲で始まり、スペイン語によるビートルズのカヴァー、そして原曲がイタリアのカンツォーネで締めくくられるなどの趣向が凝らされています。当時のA&Mはアメリカン・ポップス、スパニッシュ/メキシカン・ポップス、ブラジル音楽などが融合したサウンドを得意としていたレーベルでした。創始者のひとりであるハーブ・アルパート、チャック・マンジョーネ、セルジオ・メンデス、バート・バカラック、クロディーヌ・ロンジェ、ロジャー・ニコルズ、クリス・モンテスなど個性豊かで多彩なアーティストがサンドパイパーズと同時期に所属。サンドパイパーズが織りなす非英語圏の世界を旅するような感覚に陥るような音楽は、まさにA&Mサウンドの特徴を象徴していたと言えるでしょう。

The Sandpipers - For Baby/Inch Worm/It's Over

 今回も引き続きザ・サンドパイパーズのアルバム、『The Sandpipers』より「For Baby」、「Inch Worm」、「It's Over」の3曲を取り上げます。

サンドパイパーズ(紙ジャケット仕様)サンドパイパーズ(紙ジャケット仕様)
(2012/04/18)
サンドパイパーズ

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1. The French Song
2. Bon Soir Dame
3. For Baby
4. Inch Worm
5. It's Over
6. Glass
7. Rain, Rain Go Away
8. Yesterday (Ayer)
9. Michelle
10. Try To Remember
11. I'll Remember You
12. Softly As I Leave You

 ジョン・デンバーがボビーという女性に向けて書いたという「For Baby」。男性のけなげさが伝わると同時に、思いやりがないと誰にも相手にされないことが思い知らされる曲です。


FOR BABY
君の傍らに寄り添って雨の中を歩こう
君のその小さな手の温もりにすがりつきながら
他の誰よりも君を愛しているいう俺の思いを
君に理解してもらえるならどんなことでもしよう

吹く風が君の名前を俺の耳元で囁くだろう
やがて小鳥たちがさえずるだろう
君が通りを歩けば街路樹の葉がお辞儀をし
朝の訪れを告げる鐘の音が響き渡るだろう

君が落ち込んだときは傍らに駆けつけよう
泣いていたならキスでその涙を拭ってあげよう
俺が見つけた幸せはすべて君に分けてあげよう
君の瞳の中にも愛の輝きが映るだろう

七色の虹のように、いろんな歌を君に歌ってあげよう
俺自身が感じた喜びの歌を君に囁いてあげよう
君が通りを歩けば街路樹の葉がお辞儀をし
朝の訪れを告げる鐘の音が響き渡るだろう

 ジョン・デンバーのヴァージョンは 1972年リリースの『Rocky Mountain High』 (1972) に収録。彼がチャド・ミッチェル・トリに在籍していた時の アルバム『Violets of Dawn 』(1966) に収められていたものが、ファースト・リリースです。今回はチャド・ミッチェル・トリオが1987年に再結成したライヴ映像をご覧ください。


 この歌の詳細な説明はマーヤさんのブログ「始まりはいつもジョン・デンバー」の記事を参照してください。

 尺取り虫の動きに見立て、融通のきかない人への教訓めいた内容が綴られる「Inch Worm」。


INCH WORM
2足す2は4
4足す4は8
8足す8は16
16足す16は32

尺取り虫よ、尺取り虫
おまえはそうしてマリーゴールドの茎の長さを測ってるのか
おまえの身体能力と計算能力なら
かなり遠くに行くことも出来るだろうよ
尺取り虫よ、尺取り虫
おまえはそうしてマリーゴールドの茎の長さを測ってるようだが
そのうち動きを止めて
マリーゴールドの美しさに気がつくと思えるんだがなぁ

 この歌は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンに扮するダニー・ケイ主演のミュージカル映画『Hans Christian Andersen』(1952年公開)のテーマとして、フランク・ルーサーによって書かれました。


 メアリー・ホプキンも1969年発表のファースト・アルバム『Post Card』にて取り上げていました。この選曲はプロデュースを担当したポール・マッカートニーによるものでしょう。サンドパイパーズのヴァージョンとは少々趣が異なり、重厚で幻想的な雰囲気が漂っています。思えば、アンデルセンの童話は、現代社会でも通用する風刺の効いた「裸の王様」、外見で判断しては行けないことを諭した「みにくいアヒルの子」、純真無垢な心がなによりも大切であることに気付く「雪の女王」よりも、「人魚姫」、「マッチ売りの少女」、「赤い靴」などのように主人公の死やそのことに対する周囲の無関心が描かれた作品のほうが印象的なのかもしれません。


 ポール・マッカートニーも2012年にリリースされた最新作である『Kisses On The Bottom』において、カヴァー・ヴァージョンを披露していました。


 恋の終わりを告げる物悲しさが心に滲みる、「It's Over」。サイモン&ガーファンクルを連想させるような曲調と思えば、間奏にチェンバロが使われる優美な演出が試みられ、悲しい恋の終わりを象徴するような効果をもたらしています。


IT'S OVER
時間が流れるものではなく
そして私に時間を止められるなら
俺とおまえが分かち合ったこの愛を永遠に留めることが出来よう
もう俺たちに朝の光を照らす日は来ないかもしれない
そうなると共に過ごす夜は訪れないことを二人は悟るのだ

おまえが俺のもとから去ると
俺のこの手を触れる相手をなくすことになる
大地に昇る太陽から目を背ける以外にない
おまえが俺のもとを去るのを何とか見ている
おまえを行かせたのは俺が原因だとしても
もう二人の関係は終わってるんだ

おまえが俺の本心に気づいてくれたなら
おまえは戻って来てくれるかもしれない
愛し合って過去を忘れることを
人々は必ず何度も繰り返すものだ
ああ、俺自身の口から「俺たちはおしまい」だって
言わざるを得ないことがあったかもしれないのだ

だから俺は背を向けて、風に向かって襟を立てた
静けさの中で時が流れ
おまえのことを少しでも考えないようにしている
思い切って
静か通りでも歩いてみよう
二人の関係は終わったのだから

 オリジナルは1966年にリリースされたジミー・ロジャースのヴァージョンです。同年発表のアルバム『It's Over』に収録。サンドパイパーズの他にもグレン・キャンベル (1967年の『Gentle on My Mind』に収録)、エディ・アーノルド (1968年の『The Romantic World of Eddy Arnold 』) 、 エルヴィス・プレスリー(1973年の『Aloha From Hawaii Via Satellite 』) などのカヴァーがあります。


 サンドパイパーズはウエスト・コーストに吹く爽やかな風を体現するかのような印象を受けるグループ。メンバー3人が、聖歌隊出身によるものなのか、他のロック・グループとは一線を画すコーラスとハーモニーを醸し出し、ニック・デカロらによる当時としては垢抜けたアレンジが施されていました。近年、彼らの音楽がお洒落なサウンドとして再評価されているようですが、透明感のある新鮮な響きが心を和ませます。

The Sandpipers - The Sandpipers

 風薫る初夏から入梅へと季節が巡る頃になりました。気分だけでも爽やかなままでいたいので、今回はソフト・ロックを取り上げます。ご登場いただくのはザ・サンドパイパーズの皆様。1967年にリリースされた彼らのセカンドアルバム、『The Sandpipers』から何曲か紹介することにしました。

サンドパイパーズ(紙ジャケット仕様)サンドパイパーズ(紙ジャケット仕様)
(2012/04/18)
サンドパイパーズ

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1. The French Song
2. Bon Soir Dame
3. For Baby
4. Inch Worm
5. It's Over
6. Glass
7. Rain, Rain Go Away
8. Yesterday (Ayer)
9. Michelle
10. Try To Remember
11. I'll Remember You
12. Softly As I Leave You

 オープニング・ナンバーは「The French Song」。もともと「When The Sun Says Goodnight To The Mountains」というタイトルを持つナンバーで、ハリー・ピース(作詞)とラリー・ヴィンセント(作曲)によって1936年に書かれました。サンドパイパーズはフランス語と英語で歌っています。


THE FRENCH SONG
太陽が「良い日和だね」と
山々に語りかける時
そして夜の闇が「やあ」と
夜明けに向かって挨拶する時
私は夢に中でひとりきり
丘の上にでは
まだ君の声が聞こえてくる
君はもういないけど

私の家のドアから聞こえてくるのは
風が運ぶ幾つものラヴ・ソング
君との甘い思い出が甦ってくるのさ

 カナダの女性シンガー、ルシール・スターによるヴァージョン。1964年にハーブ・アルパートのプロデュースで、A&Mから発表されました。全米チャート54位、カナダのチャートでも12位ながら100万枚を超えるセールスを記録し、彼女を一躍有名にしたとのことです。サンドパイパーズはルシール・スターとレーベル・メイトの関係だったので、おそらく彼女のヴァージョンをお手本にしたのでしょう。


 日本でも昭和期の宝塚歌劇団月組のトップスターで、退団後は女優として映画やドラマで活躍した小夜福子のヴァージョンが、「遠く君を想う」のタイトルで昭和13年(西暦1938年)にリリースされています。


 バッド&トラヴィス、バッド・ダシェル&カインズメンなどで活動したフランス生まれのフォーク・シンガー、バッド・ダシェル作の「Bon Soir Dame」。こちらも英語とフランス語で歌われています。


BON SOIR DAME
我らが住むすぐ近くにある緑の森
静かに水を湛えた底の深い小さな池がある
夕暮れ時に聞こえる音と森の小鳥のさえずりが
私の愛する女性を優しく眠りへと誘なった

そっと優しくさえずっておくれ、小鳥たちよ
彼女を起こさないで
彼女を想う私の心の疼きに彼女は気づいていないのだから
思い切って「愛しています」なんて
一度も口に出して言ったことがないんだ
彼女が目覚める前にその言葉を囁くつもりさ

彼女をいま起こしては可哀相だ
むしろここに寄り添い知らないふりをしたい
ふたりがいつまでもここに留まることができるのならば
その時、私と彼女の夢は絶対についえることがないだろう

 サンドパイパーズは前作『Guantanamera』でもビートルズ・ナンバーをカヴァーしていましたが、今作ではとても有名な2曲をスペイン語で歌っています。


 サビの部分はオリジナルと同じくフランス語。


 南米情緒が溢れながらも哀愁を帯びた繊細な響きが醸し出された前作『Guantanamera』。今作ではフランス語の歌詞まで導入し、多国籍ならぬ無国籍の風情が増した演出がなされていました。プロデュースはトミー・リプーマ。アレンジは(1)~(6)をニック・デカロ、(7)~(12)をモート・ガーソンらが各々担当しています。