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Tom Waits - CLOSING TIME

トム・ウェイツのアサイラム時代の作品が紙ジャケット仕様でリリースされました。そこで今回は1973年に発表された彼のファースト・アルバムである『CLOSING TIME』を取り上げます。

クロージング・タイム(紙ジャケット仕様)クロージング・タイム(紙ジャケット仕様)
(2010/03/10)
トム・ウェイツ

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1. Ol' 55
2. I Hope That I Don't Fall in Love with You
3. Virginia Avenue
4. Old Shoes (& Picture Postcards)
5. Midnight Lullaby
6. Martha
7. Rosie
8. Lonely
9. Ice Cream Man
10. Little Trip to Heaven (On the Wings of Your Love)
11. Grapefruit Moon
12. Closing Time

以前にトム・ウェイツの『Blue Valentine』を扱った時に彼の簡単なプロフィールを記しましたが、少しばかり補足したいと思います。
1949年12月7日にカリフォルニア州バモーナに生まれたトム・ウェイツ。彼が10歳の頃に両親が離婚、15歳の時には母と姉とともに隣国メキシコに近い観光地であるサン・ディエゴに引っ越しました。
幼き頃よりフランク・シナトラやルイ・アームストロングに親しみ、思春期になるとフォーク、ブルース、R&B、ジャズなどに傾倒。ことにボブ・ディランがお気に入りだったようで、彼を通してジャック・ケルアックを始めとするビートニク文学に感化されていったようです。
家庭の事情もありトムは16歳で高校を中退。ピザ・ハウスで働き始めます。その後もクラブや娯楽施設の多いこの地で職業を転々と変え、学校では味わうことのない人生経験を積んでいきました。
そうした生活が続く中でミッション・ビーチへ移住し、やがて自ら歌を作り、ギターとピアノを演奏しながら地元のクラブで歌い始めるようになります。独特の個性を持った彼の歌は次第に周囲の評判を呼びました。
自信を得たトム・ウェイツは1970年初頭、名門クラブ、「トルヴァードール」の新人オーディションを受けるためにロサンゼルスへ向かいます。デビューを目指す百戦錬磨の強者が集う中、トムは見事に合格して出演が決定。数曲を人前で歌うチャンスをつかんだのでした。
翌1971年、トム・ウェイツはMFQ、フランク・ザッパ、ティム・バックリィらのマネージメントを行い、アサイラム・レコードとも関係の深いハーブ・コーエンに見初められます。 コーエンはソング・ライターとしてトムと契約を結び、デモ・テープを制作。翌72年、トムのライヴ・パフォーマンスがアサイラムの社長であるデヴィッド・ゲフィンの耳に留まり、アーティストとしての契約に至ります。
トム・ウェイツのファースト・アルバムのプロデュースには元MFQのメンバーで、アソシエーション、ラヴィン・スプーンフル、ティム・バックリィのプロデューサーとして知られるジェリー・イエスターを起用。彼はミュージシャンであり、コンポーザー、アレンジャーでもある才人でした。
ボブ・ディランを敬愛するものの、1960年代のロックよりもジャズやR&Bといった黒人音楽に多大な影響を受けたトム・ウェイツの音楽性。声質はしわがれ声のディランとは異なり、むしろルイ・アームストロングを彷彿させるだみ声。シンガー・ソング・ライターが脚光を浴び始めた1972年前後のアメリカの音楽界には少々そぐわないタイプの新人だったのかもしれません。そうしたロック・ミュージックと少し距離を置いたようなトムの個性や特性を生かしながらも時代の潮流に合わせ、リスナーに受け入れられるサウンドに仕上げるためにイエスターは苦心したものと思われます。

それではアルバムの中から何曲か紹介します。オープニング・ナンバーは「Ol' 55」。


続いて、前述のデモ・テープのヴァージョンから。このデモ録音は『The Early Years 』(1991)及び『The Early Years Vol. 2』(1993)としてリリースされました。この「Ol' 55」は『Vol. 2』に収録。


OL' 55
時は早く過ぎ行く
だから俺はいつもの「55」(高速道路)を
全速力で突っ走った
速度を落とすと心が洗われる気がした
生きていると実感したのさ

今まさに夜が明け
俺は幸福の女神を乗せて走る
フリーウェイは車とトラックで一杯
星が消え始め 
俺はパレードを先導する
もう少しこのまま走り続けたいと願いながら
この押さえられぬほどの気持ちをおまえに伝えたいのさ

朝6時になると
促されなくとも
俺は出発しなければならなかった
トラックがみんな俺を追い越し
ライトがまぶしい
こうして俺はお前のところから
自分の居場所へ帰るんだ

今まさに夜が明け
俺は幸福の女神を乗せて走る
フリーウェイは車とトラックで一杯
星が消え始め 
俺は星々のパレードを先導する
もう少しこのまま走り続けたいと願いながら
この押さえられぬほどの気持ちをおまえに伝えたいのさ

時は早く過ぎ行く
だから俺は懐かしの55へ全速力で突っ走った
速度を落とすと心が洗われる気がした
生きていると実感したのさ

今まさに夜が明け
俺は幸福の女神を乗せて走る
フリーウェイは車とトラックで一杯
フリーウェイは車とトラックで一杯
フリーウェイは車とトラックで一杯

この「55」は55年型の車を意味するとの説があります。ここではニュー・ジャージー州の州間高速道路「Route 55」として訳しましたが、ダブル・ミーニングと解釈するほうが適切なのかもしれません。

この曲はイーグルスのアルバム『On The Border』(1974)で取り上げられ、トム・ウェイツに莫大な印税収入をもたらしました。カヴァー・ヴァージョンは枚挙に暇がありませんが、今回はサラ・マクラフランのヴァージョンを紹介します。彼女が1995年にリリースしたアルバム『The Freedom Sessions』(1995)に収録。


他にもイアン・マシューズ(1973年発表の『Some Days You Eat The Bear』に収録)、エリック・アンダーセン(1975年発表の『Be True You』に収録)、ショーン・コルヴィン(1994年発表の『Cover Girl』)など秀逸なカヴァーが多数存在します。

シンガー・ソング・ライター的なサウンドのアプローチが施された「I Hope That I Don't Fall in Love with You」は『The Early Years 』から。「おまえに恋などしたくない/恋は憂鬱なものさ」と言いながらも女性の素振りが気になる純粋な男心が描かれています。


ブルージーなギター、ミュート・トランペットがジャズの色合いを濃く醸し出した「Virginia Avenue」。


ジャジーなミュート・トランペットの音色とトムの抑制されたヴォーカルが心に滲みる「Midnight Lullaby」。


40年前に愛し合ったが成就することなく別れ、お互い家族持ちになった今、かつての恋人に愛を告白する「Martha」。


孤独感が漂うピアノの音色とともに「俺は人生を知っているつもりだったが寂しい」と歌われる「Lonely」。


メランコリックな「Ice Cream Man」は『The Early Years』のヴァージョンでお聴きください。


ジャジーなバラードといった風情の「Little Trip to Heaven (On the Wings of Your Love)」。こちらも『The Early Years』収録のヴァージョンから。


ジェリー・イエスターのアレンジによるインストゥルメンタル・ナンバー「Closing Time」。
酒場で飲んだくれ、ピアノにもたれかかるようにして眠っていトム・ウェイツ。朝を迎え、行き交う人のない通りをただ一人で家路を辿るといった情景が浮かびます。


トム・ウェイツが紡ぎ出す歌には都会の姿がリアルに映し出されていました。それは摩天楼がそびえるオフィス街ではなく、薄汚れた裏通りにおける様々な人間模様が描かれていたのです。16歳という多感な時期に、夜の街で働くことを余儀なくされたことによる経験が創作の下敷きとなっていたのでしょう。都会人の悲哀、悲恋、心情の描写が自身の屈折感ともあいまって、彼特有の鋭い観察眼を通した独自の世界が構築されていました。アルバム制作時のトム・ウェイツはまだ24歳。既に人生を達観したような雰囲気を表現していたのです。

評論家の評価が高かったものの商業的には芳しくなかったトム・ウェイツのファースト・アルバム。トムも「もっとジャズ寄りの音にしたかった」と漏らします。デヴィッド・ゲフィンはそんなトムの意をくみ、セカンド・アルバム以降はジャズ・ドラマーの経験があり、フィフス・ディメンションの『Stoned Soul Picnic』(1968)のプロデューサーとしても実績のあるボーンズ・ハウにプロデュースを託しました。こうしてジャジーなトム・ウェイツ独特の世界が確立して行くのです。

The Early Years, Vol. 1The Early Years, Vol. 1
(1995/06/06)
Tom Waits

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The Early Years, Vol. 2The Early Years, Vol. 2
(1998/08/25)
Tom Waits

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Tom Waits - Blue Valentine

前回のリッキー・リー・ジョーンズの記事を「My Fanny Valentine」で締めくくったので、今回は彼女のかつての恋人トム・ウェイツのアルバム『Blue Valentine』を取り上げたいと思います。少し季節外れのようで申し訳ございません。
1973年にアサイラムからデヴューしたトム・ウェイツはしわがれ声で都会の薄汚れた風景を描写するシンガー・ソング・ライターです。ロサンゼルスを拠点に活動を始めましたが、彼の作品には当時のウエスト・コーストから連想される青空や乾いた空気といった爽やかさとは正反対の世界が描かれていました。
ノスタルジックな雰囲気を漂わせる「ピアノマン」としてランディ・ニューマンと対比されることがあります。アイロニーや風刺、庶民の生きざまが歌詞の中に込められている点では共通するものがありますが、ニューマンがスタンダード的な気品を感じさせるのに対して、不協和音や即興演奏といったスタイルで知られるジャズ・ピアニストのセロニアス・モンクやビートニクの作家ジャック・ケルアック、詩人アレン・ギンズバーグなどの影響を受けたウェイツの作風はジャズの色合いの強い独特のサウンドを響かせ、都会人の哀愁のみならず旅や放浪をもテーマにした曲も多く見受けられました。

トム・ウェイツの本作『Blue Valentine』は1978年に発表された6作目です。レナード・バースタインとスティーヴン・ソンダイムのコンビによる名作ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」(1957年初演、映画化は1961年)でお馴染みのバラード「Somewhere」で幕が開きますが、このあとに続くのはトムのオリジナル曲。従来通りの裏町や場末の酒場の雰囲気が庶民の哀感と相まって綴られ、彼のストーリー・テラーとしての実力が発揮されていました。

今回はアルバムの中からまず、季節外れですが「Christmas Card From A Hooker In Minneapolis」とタイトル曲「Blue Valentine」を聴いていただけたら幸いです。




Blue Valentine
遠いフィラデルフィアの地から
彼女はブルー・ヴァレンタインを送ってくる
昔の俺との思い出を記念とするために
まるで逮捕状が出ている気分だ
彼女はバック・ミラーで俺の行動をチェックしている
俺はいつも逃げ続けている
俺が名前を変えたのもおまえのせい
居場所をつきとめられるなんて思ってもみなかった

半分忘れかけた夢のように
通りを歩いていると思い出す
靴の中に入り込んだ小石のように
彼女はブルー・ヴァレンタインを送ってくる
おまえとの思い出の中の亡霊は
接吻の時に感じるアザミの棘
そして薔薇の花をへし折る強盗
それは俺が袖の下に隠している
果たせなかった約束の刺青
過去を振り返るといつでもおまえが見える

俺は多方面に留まろうとしているのだが
彼女はブルー・ヴァレンタインを送ってくる
俺たちの愛は賞賛されるに違いないと
皆が言い張る
なぜ俺はこの狂気のすべてを
ナイトテーブル付きのタンスにしまっているのか
俺を悩ますだけなのに
ベイビー、分かっているんだよ
襟の折り返しの下で眠っている
俺の盲目で傷ついた心とともに
あちこち歩き回れるだけで運がいいことを

彼女の送ってくるブルー・ヴァレンタインは
俺が犯したきわめて重要な罪を思い出させてくれる
俺は罪を洗い流すことも
両手に付いた血痕を取り去ることも出来ない
悪夢を追い払うために浴びるようにウイスキーを飲む
毎晩痛めた心を切り刻み
セント・ヴァレンタイン・デーが来るたびに
少しずつ死んで行くのさ
おまえに約束したことを憶えているかい
書き送るよ
ブルー・ヴァレンタインを


「Romeo Is Bleeding」と「Kentucky Avenue」はライヴ映像でご覧ください。




Blue ValentineBlue Valentine
(1995/03/24)
Tom Waits

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