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好きな音楽のことについて語りたいと思います。

James Taylor - Moon River

 巷では毎日のように新型コロナウイルス騒ぎが続いております。重症化しやすいのはご年配の方々とすっかり高を括っていたら、自分もほんの近い将来に前期高齢者の仲間入り。もう若くないのだと痛感させられました。
 そんな暗い気分を吹っ飛ばそうと、今回はJTことジェイムズ・テイラーの優しい歌声で癒されることにします。お題は「Moon River」。スタンダード・ナンバーばかりを収録した彼の久々のアルバムの中の1曲です。






1. My Blue Heaven
2 Moon River
3. Teach Me Tonight
4. As Easy As Rolling Off A Log
5. Almost Like Being In Love
6. Sit Down, You're Rockin' The Boat
7. The Nearness Of You
8. You've Got To Be Carefully Taught
9. God Bless The Child
10. Pennies From Heaven
11. My Heart Stood Still
12. Ol' Man River
13. It's Only A Paper Moon
14. The Surrey With The Fringe On Top
BONUS TRACKS
15. I've Grown Accustomed To Her Face
16. Never Never Land

 思慮深い面持ちで微笑みかけるJT。ノーマン・シーフが撮影した陰影のあるジャケット写真からは、彼の何か達観したような表情が窺えました。自作曲はなく、カヴァー・ヴァージョンばかりが収録されたアルバムですが、それらは彼が幼き頃からなれ親しみ、音楽的な背景となったことが推測されます。齢70を過ぎ、そうした馴染みのある楽曲に感謝を捧げ、原点を見つめ直そうとのJTの意思が、このアルバムに込められているのではないでしょうか。

 さて、 「Moon River」は1961年公開の映画『テイファニーで朝食を』(原題: Breakfast at Tiffany’s)の劇中で、主演のオードリー・ヘプバーンによって歌われた主題歌です。作詞はジョニー・マーサー、作曲はヘンリー・マンシーニ。アメリカ南部ルイジアナ州ニューオリンズ出身の作家トルーマン・カポーティ(1924年9月30日 - 1984年8月25日)原作の小説『テイファニーで朝食を』を映画化した作品です。

 映画ではヘプバーン扮する奔放な娘ホリーとジョージ・ペパード扮する映画の語り手である作家のポール・バージャクの恋物語で、紆余曲折の果てに雨降る中で抱き合って結ばれるという作品でしたが、原作ではこの感動的なラストシーンとかなり趣が異なっていました。結婚という制度にとらわれず、自由な恋愛を好むホリーのもとには外交官、映画関係者、億万長者などセレブな男性が取り巻き、彼女が住むアパートの部屋の中でも外でもパーティー三昧。ポールとも恋仲にはなるのですが、決してステディな関係には発展しません。それどころか、束縛を嫌っていたホリーはそろそろ年貢の納め時と思ったのか、映画のタイトルが『ティファニー』だけに「ダイアモンドに目が眩んだのか」、金持ちの外交官との結婚を夢見るようになっていました。
 やがて彼女の取り巻きのひとりであるマフィアのボスが逮捕され、ホリーにも犯罪の容疑がかかり身柄拘束。当然のことながら外交官はスキャンダルを恐れて別れを切り出し、さっさとブラジルへ戻ってしまいます。それでもホリーは外交官を追いかけブラジルへ向かうものの、彼には妻子がいて破局。彼女はそのままどこかへ旅立ってしまうという結末を迎えました。こうしたエンディングの違いはできるだけハッピーエンドでなければならないアメリカン・ラヴ・コメディーのお約束なのか、はたまたオードリーの持つキャラクターの魅力ゆえによるものかと思われます。

MOON RIVER
ムーン・リヴァー 越えられぬほど果てなく広い
いつの日か 私は堂々と渡ってみせよう
多くの夢を叶え、たくさんの心を傷つけた
どこへ流れようと 私はこの川の流れに身をまかせる

二人の漂流者が、世界を見ようと旅立つ
世界には見るべきものがいっぱいあるのだ
我らは虹の端を追う者同士
曲がり角で待ってくれる
心を許せる友
ムーン・リヴァー そして私

 歌詞の中に"My huckleberry friend"という言葉が出てきます。ハックルベリーはブルーベリーに似たツツジ科の食用果実で、作詞を担当したジョニー・マーサーによると、幼き頃に野山でよく摘んでいたというぐらい身近にあった存在だったとのこと。また、マーク・トゥエイン作の小説『The Adventures of Tom Sawyer(トム・ソーヤーの冒険)』出てくる主人公のトムの親友ハックルベリーからの引用とも思われます。物語の中で、トムとハックルベリーは苦楽をともにし、様々な問題を乗り越えて成長していきました。それ故、「ハックルベリーのように気のおけない友」という意味も含まれているのでしょう。そこからマーサーは川を心の拠り所と見立て、自分の信じるままにこの大河を進んで行ければ、いつか報われ、成功を手に入れられることを表現したかったのかもしれません。それ故、勤勉に奮闘努力すれば立身出世が叶うというアメリカ人が持つアメリカン・ドリームの概念が、この歌の根底にあるといえます。

 さて、皆様ご存知の通り、「Moon River」はジャンルを問わず数々のアーティストに歌われ、カヴァー・バージョンは枚挙に暇がありません。そこで今回は私の独断と好みによる幾つかを紹介させていただきます。

 まずはやはりオードリーが劇中で歌うヴァージョンから。


 お次は女性コーラスといきましょう。1955年にデビューしたダイアン、ペギー、キャシー、ジャネットの4姉妹によるレノン・シスターズ。姉妹による絶妙のハーモニーに心惹かれます。現在はダイアンとペギーが引退し、妹のミミが加わるなど若干のメンバー・チェンジが行われたものの、お元気に活動されているようです。1962年リリースの『Can't Help Falling in Love』に収録。


 女性陣に対抗するわけではございませんが、男性ボーカル・グループにも出てもらいましょう。オープン・ハーモニーからユニゾンまで様々なテクニックを駆使し、ビーチ・ボーイズに多大なる影響与えたとされるフォー・フレッシュメンの面々です。彼らのヴァージョンは1963年リリースの『In Person Volume 2』に収録。


 ミュージカル映画『West Side Story』でお馴染みで、親日家としても有名なジョージ・チャキリスのヴァージョン。ジャジーな雰囲気にハスキー・ボイスが冴え渡ります。1962年リリースの『 Memories Are Made of These』に収録。


 女性ボーカルも紹介しておきましょう。「Wonderful Summer」で知られるロビン・ワード。彼女のヴァージョンは1964年リリースの『Wonderful Summer』に収録されていました。


 ユニークな男性ボーカルを1曲。1960年代に活躍したシンガー・ソング・ライターのロッド・マッケンです。1975年リリースの『Goodtime Music』に収録。


 もうひとりユニークな方にご登場していただきます。リラックスした独特のグルーブ感が堪りません。ドクター・ジョン。2006年リリースの『Mercernary』に収録。


 ソウル・シンガーの方にもお声をかけさせていただきます。ベン・E・キングのヴァージョンは1962年リリースの『Ben E. King Sings for Soulful Lovers』に収録。ゆったりとしたノリの良いアレンジに仕上げられていました。


 私の年代では「味の素のおじさん」としても有名なアンディ・ウィリアムスの優雅な歌唱でお開きとしましょう。彼のヴァージョンは1962年リリースの『Moon River and Other Great Movie Themes』に収録されていました。






 冒頭で述べた新型コロナウイルスが、アメリカ全土でも蔓延しており、カリフォルニア州では戒厳令さながらの外出禁止令が出されています。日本で言えば前期高齢者に当たるJTですが、彼より若い63歳の俳優のトム・ハンクス、リタ・ウィルソン夫妻が、新型コロナに感染して入院しており、少々心配になりました。トランプ大統領が国家緊急事態宣言をしたことで、危機意識が一気に高まっているのを横目に、感染はアメリカ全土に拡大する勢いを示しております。社会の動きを長期的に停止させ続けると、人々の心にストレスがたまることはもとより、経済的な損失は計り知れず、日々の生活に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。終息にはかなりの時間が掛かりそうですが、せめて早期の収束を望む次第です。

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James Taylor - Her Town Too

 前回は映画『波の数だけ抱きしめて』の挿入歌として使用されたラリー・リーの「Don't Talk」を取り上げました。今回も『波の数だけ抱きしめて』つながりで、JTことジェイムズ・テイラーの「Her Town Too」をお題とします。この曲は彼が1981年にリリースしたアルバム、『Dad Loves His Works』に収録されていました。

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 CBS移籍第3弾として発表された本作『Daddy Loves His Works』。おしどり夫婦と称されたカーリー・サイモンとの関係が破綻していく最中に制作されたことによるのか、当時の彼の心境が、収録された11曲の中であたかも短編小説のように織りなされていました。
 プロデューサーはお馴染みのピート・アッシャー。バックを受け持つのはワディ・ワクテル(ギター)、ダン・ダグモア(ギター)、リー・スクラー(ベース)、リック・マロッタ(ドラムス)、そして後に『Never Die Young』(1985年)、『New Moon Shine』(1991)、『LIve』(1993)の3作のプロデュースに携わることになるドン・グロルニック(キーボード)といった布陣。CBS移籍第1弾である『JT』(1977)では「Handy man」(オーティス・ブラックウェル、ジミー・ジョーンズ共作)、「Honey Don't Leave L.A.」(ダニー・コーチマー)、続く『Flag』(1979)では「Day Tripper」(ジョン・レノン&ポール・マッカートニー)、「Up On The Roof」(ジェリー・ゴフィン&キャロル・キング)などのカヴァーが収められていましたが、本作『Dad Likes His Work』にはバンドのメンバーやJ.D.サウザーらとの共作あれども、すべてJT本人のペンによる作品が収録されていました。

 アルバムのオープニングを飾る「Hard Times」。夫婦であり続けることの難しさが描かれた曲です。


HARD TIMES
辛いときもあった、ああ本当に
ともに暮らして行くのは楽じゃない
男は怒り、女は飢え
お互いを苛立たせている
とても憂鬱で、落ち込んだ気分
他に何も言いようがない
彼女は街に出て、周囲に目を配りながら
別れ話をしている

そのまま行かせてしまってはいけない
もう一度チャンスに賭けなければ
ふたりとも努力しなければ
俺を愛しても意味をなさないよ
でも俺は君に夢中、これからも
だからもう一度、君に戻って来てほしいんだ
君にはふさわしくない俺かもしれないが
俺の気持ちは変わらない

だからふたりで努力しよう
努力してこの辛い時期を乗り越えなければ
努力して、努力して乗り越えなけらば
努力して、努力して乗り越えなけらば
そう、努力して、努力して乗り越えなけらば

辛い時期、辛い時期もあったさ
ともに暮らして行くのは楽じゃない
男は怒り、女は飢え
お互いを苛立たせている

このような辛い時期はふたりで努力してみようよ

 男が未練がましく「愛している。戻って来てほしい」と呟き、努力して苦境を乗り越えようとしても、女からは勝手な言い草とつれなくされている様子が窺えました。
 カーリー・サイモンは「もっと家庭を顧みてほしい」とJTに願ったと聞きます。JTにしてみれば「おまえかてミュージシャン活動を続けてるやないか。子供の教育はどないなっとんねん」といった言い分もあったことでしょう。芸能人同士の結婚はすれ違いが多いらしく、お互いの気持ちも次第に離れていくものかもしれません。もっとも、いくら愛し合っていても、四六時中顔を付き合わせていては飽き飽きするのも当然の流れでありましょう。相手の悪いところばかりが目につくようになったり、価値観の大きな違いに気付かされたりすることも。いずれにしても、ひとつ屋根の下の男女の関係は難しいものです。

 シングル・カットされて全米11位のヒットとなった「Her Town Too」。


HER TOWN TOO
彼女は外に出るのをずっとこわがっているのさ
ドアのノックの音にびくびくしている
いつもわずかな疑いを抱き
誰が訪ねて来るのか見当もつかない
たぶん友達の友達の友達
まったく誰だっていいような人
またとりとめもないほど何でもないことばかり

以前は彼女の街だった
以前は彼女だって自分の街だって言っていた
以前は彼女の街だったものさ
以前は彼女だって自分の街だって言っていたものさ

昔なじみの女友達さえも
彼女を罵倒しているらしい
何度も何度もあちこちに電話しまくり
彼女の名前を出して噂話をしている
ある人の、あることについてといった調子で
誰かが言ったかもしれない彼女にまつわるいろんなことを
彼女がいつも友達だと心の中で思っていた人たちは
彼女のことなどかまうことなく日々を過ごしているのだろう

そう、人々にはふたりが一緒にいるのは見慣れたことだった
でも今じゃ彼は姿を消し、歳月は過ぎ行く
ああ、永遠に続くことなどありえない
彼女に残されたものは家と庭
彼には気心知れた仲間たち
その中には彼の友達もいれば
彼女の友達もいる
そしてふたりのことをわかってくれる人もいる

こんな小さな街だから神様にはすべてお見通し
そう、破綻して行く成り行きは誰にも分かることだ
同情するつもりはないけれど
君に電話したくなっただけさ

以前は君の街だったじゃないか
昔は俺の街でもあったんだぜ
すべてが崩れ落ちてしまうまで
君には分からないだろうな
誰かが君を愛しているということを
君を愛している人がいるってことを

ダーリン、誰かが今でも君を愛している
俺は今でも憶えている

 イーグルスの「I Can't Tell You Why」あたりをどこか彷彿させるような切なく哀愁を帯びたメロディーの「Her Town Too」。傷心のJTを支えるかのようにデュエットの相手をしているのはこの曲の共作者でもあるJ.D.サウザーです。
 先ほどの「Hard Times」での別れ話を吹聴する女性とは打って変わり、おそらく離婚したことがきっかけで自宅に引きこもる彼女。彼女は家と庭を得て、彼は仲間の支援を手に入れたとありますが、原文では "He gets the boys in the band"と記され、「バンドの仲間を手に入れた」とも訳せ、すなわちミュージシャン仲間やバンドのメンバーが自分の側に付いてくれたという解釈も成り立つでしょう。カーリー・サイモンに財産を渡したが、俺には友人たちが付いてるのだとJTは言いたかったのかもしれません。そして「ダーリン、誰かが今でも君を愛している/俺は今でも憶えている」はJTの偽らざるカーリーへの想いでしょう。

 JDも登場するプロモーション映像です。


 アルバム発表直後と思しきライヴ音源とのこと。


 映画『波の数だけ抱きしめて』の1場面です。


 JTが妻子に向けて送った歌のように思われる「Hour That The Morning Comes」。


HOUR THAT THE MORNING COMES
ママはミュージシャン、いつも注目の的
金色の靴で一晩中踊り続ける
彼女は最高の気分で
踊り、踊り、舞い上がった
お天道様が昇る頃までは半分天国にいる気分さ

そしてパパは頭を抱えて呆然とさせられている
ママはパパが仮眠を取っていると思いたいのだ
彼は働き詰めだから
夜通し働いているから
お天道様が昇る頃でも半分地獄にいる気分なのさ

月の光に誘われて地獄から飛び出して来たコウモリのように
昨晩めちゃくちゃに破壊した絵の断片のように
きっとなんとかなるだろうよ
お天道様が昇る頃には、俺は半分重苦しい気分に包まれているのさ

おい、ランプシェードを被ったまぬけな奴を見なよ
楽しんでいるかって誰かに言われたみたいだけど
そりゃ間違いだぜ
そうじゃない、そうじゃない、そうじゃないんだ
天然の愚か者だったら
お天道様が昇れば目を開けるだろうよ

秘密諜報部員のあの男を見なよ
手を血に染めて教会からこっそり抜け出して来るぜ
奴は売り物
入札するなら今がチャンスだ
窮地に陥った時
奴は最新のニュースになり、進み続けるだろう

水をくれ
少しでいいからワインも
君たちの目の前にいる男は
お天道様の下にいるのが少しばかり長過ぎたようだ
ほんの少しな
だが俺はお天道様が昇るまでには家路に向かっているだろう

 冒頭の「ママはミュージシャン」とはもちろんカーリー・サイモンのこと。JT自身は夜中まで働いて地獄であると述べています。自虐的な要素を加えてユーモラスに表現したのでしょうが、これでは妻子の感情を逆撫でしかねません。パパは愚か者だから許してほしいと言われても、少々虫がよすぎるのではないでしょうか。

 夫婦の関係や親子の関係に向き合い、夫として、父としての自己の責任をのあり方を伝えることでカーリー・サイモンへの返答としたようなメッセージが込められたアルバム『Daddy Loves His Work』でしたが、結局1982年にふたりは離婚。関係修復を試みたJTの努力は実りませんでした。カーリーにしてみれば、「自分勝手な言い訳せんといて」といったところだったのかもしれません。男女の仲であれ、男同士の友情であれ、ビジネスにおいての信頼関係であれ、一度不信感を抱くと呆気なく崩れ去って行くのが世の常ということですね。


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